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ジャーナリスト 堀本和博
2020東京五輪は史上最も困難な中で開かれた大会として記憶されよう
1年間の延期を経て東京2020五輪(第32回)が今月23日に開幕する。新型コロナウイルス禍による延期だったが、感染拡大は収束が見通せず、東京都など10都道府県に発令中だった緊急事態宣言も先月20日まで延長された(6月10日現在)。
開催まで1カ月余に迫る中で、各種世論調査では五輪・パラリンピック中止などを求める声が高まり、開催の是非をめぐる論議がメディアで繰り広げられた。政府の感染症対策分科会の尾身茂会長の「本来はパンデミック(世界的大流行)でやることが普通でない」という国会発言が一部野党などに「五輪中止勧告」と強調され波紋を呼んだりもした。
一方で先月はワクチン接種が大車輪で進んだ。高齢者(65歳以上、約3600万人)への接種は、自衛隊による東京都などでの大規模接種の後押しもあり今月末までに2回の完了を目指す。大学や教育関係、警察官や消防士、企業の職域接種など現役世代の接種も始まっている。
東京五輪は大会の安全確保のために、外国からの観客は受け入れないことを決定。当初の想定は約18万人だった五輪関係者の来日数も約7万8千人に削減されたが、これをさらにぎりぎりまで絞り込むという。8万人の参加ボランティア関係者には、全員にワクチン接種を優先して行うことなど感染拡大の懸念解消のためにできることの、あらゆる努力が払われてきた。聖火リレーも、ルート変更や規模の縮小など各県ごとの状況に対応した工夫でつないできた。
こうした努力を積み重ねた上での、まさに困難山積の嵐の中での船出である。「安全・安心な大会実現」「国民の命を守ることを第一に」(菅義偉首相)という2つの課題の両立で、これまでの「東日本大震災からの復興五輪」とともに「コロナ禍の世界を励ますスポーツの感動を伝える」という新たな意義が加わった形である。
「五輪を開催する努力は感染症との戦いそのものであり、大会は、世界が日常を取り戻す象徴となり得る。/五輪の意義の一つは人間の可能性の可視化にあり、コロナ禍における大会の成功は、その大きな可能性を示すことにもなる」(産経・主張6月8日付)。
何とか開催されることになれば、東京五輪は史上最も困難な中で開かれた大会として人々の記憶に残ることになろう。