人生を豊かにする金言名句(48)local_offer金言名句
ジャーナリスト 岩田 均
老いたる馬は道を忘れず
この句の意味は、「山道などで迷った時には、老馬を先に立てれば、必ず道に出られる」(三省堂『故事ことわざ・慣用句辞典第二版』)です。現代風に言えば、「経験を積んだ者は、その道のことをよく心得ていて、判断を誤らない」(同)となります。
春秋戦国時代(古代中国)を描いた『韓非子(かんぴし)』にも同じ意味の句があって、「老馬の智」と言います。「斉(せい)の管仲(かんちゅう)が桓公(かんこう)に従った遠征からの帰途、雪の中で道に迷った時、老馬を放ってその後について行って道が分かった」(同)という故事に依(よ)ります。単純な習慣であっても役に立つことがあると教えていますね。
海外に目を向けてみましょう。ロシアにも同じ言葉があり、韓国では「老いた馬は道を知る」と言っており、ほぼ同じ。古代ギリシャ語やラテン語には「老狐(ろうこ)はどんな網にもかからない」という表現があり、おそらくこれが語源となったのでしょう。現代の英語、フランス語、ドイツ語などに繋がり、実際に同様の言い方、同じ意味合いで残っています(岩波書店『世界ことわざ比較辞典』を参照)。
年を経ると物忘れが多くなります。自然の摂理だと思いますが、「老馬」のたとえは、日常生活の中でも時々気づくことがあります。例えば、4ケタの暗証番号。長年使っていると、指が勝手に動いて正しくタッチしてくれるものです。われながら感心します。ところが、最近の銀行では、ATMの数字の配列が毎回変わります。こうなると、指が動かなかったり数字も思い出せなかったり。脳トレにはなりますが。
自然界の馬やキツネから学ぶこととして、「老い」をネガティブな意味だけで捉えるのではなくて、良き経験者、ベテランの知恵として重視しているのが分かります。「亀の甲より年の劫(こう)」とも言いますね。
今日、「老害」という言葉がしばしば使われます。残念ながら、そういう負の側面があるのも事実でしょうけれど、でも、それだけではないですね。