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APTF 公式サイト機関誌「真の家庭」チョッとためになる健康のお話(34)

チョッとためになる健康のお話(34)local_offer

健康アドバイザー 上杉和彦

熱の損失を最少に抑える「毛」

紅葉のシーズンが来ました。1日の最低気温が8℃以下になると、葉が色付きはじめると言われています。手袋が欲しくなる温度ですね。寒くなってくると北風が吹きます。なぜ北風が吹くかというと、北半球の大陸の日照時間が減って地面の熱が奪われ、冷たい空気が「シベリア高気圧」として発達し、太平洋側の低気圧に向かって流れるためです。風速が1メートル増すごとに、体感温度は1℃下がります。

人間は二足歩行をするようになってから、体毛がなくなってきたと言われています。動物の中で、人間は体の大きさに比べて脳の大きさが最大です。そして、脳は体温の上昇にとても敏感です。36℃から37℃が最も良く、40℃になると熱中症になり、42℃になると脳死状態になります。そのため、体毛が減少し、汗腺ができ、汗の気化熱で体温を下げられるようになったのです。汗を出せるうちは体温を下げられますが、水分がなくなってきたら脱水症になります。チーターは「最速の陸上動物」と言われ、時速115㎞で走ることができます。しかし、この速度で走れるのはせいぜい1分。なぜかというと、体温が上昇してしまうからです。チーターが体温を下げるには、走るのをやめる、木陰に入る、浅く速く呼吸をする、毛のない足と耳を周囲の空気にさらすぐらいしかありません。

一方、熱の損失を最小に抑える上で有効なのが毛です。「森の建築家」と言われるビーバーは、歯がとても強く、15㎝の木をわずか10分ほどで倒します。その木を積んでダムを造り、川をせき止め、野生動物たちが住みやすい環境を作ります。ビーバーは指先程の面積の皮膚に約4万本の毛が生えています。ちなみに人間の頭に生えている髪は約10万本です。そもそも毛は熱伝導率が低く、銅のわずか8000分の1しかありません。そして密度の高い毛は空気を閉じ込めるのですが、空気の熱伝導率は毛よりも低いのです。また、1本1本の毛の下には立毛筋があって、寒くなると毛を立たせ、さらに空気の層を厚くします。実は、人間の毛の根本にも立毛筋があります。寒さや恐怖を感じると「鳥肌が立つ」と言います。皮膚が盛り上がってぶつぶつになるのは、立毛筋が働くからです。極寒の地でも、動物たちが寒さに負けずに生きていけるのは、毛のおかげだったのです。

今から80年前、ビーバーは絶滅の危機に瀕しました。その理由は、短く細い毛をフェルトにして作った帽子「ビーバーハット」が男性のステータスとして人気を博し、乱獲が続いたからです。ちなみにビーバーの毛が手に入りにくくなってから現れたのが、「シルクハット」になります。原料は絹です。

ところで、大英帝国が七つの海を支配し、「日の沈まない国」として栄えたきっかけは、羊の毛「ウール」でした。それは、他の国々よりも良質な羊毛が取れたからです。最初は羊毛を輸出し、織った布を輸入していました。12世紀のことです。16世紀になると優秀な織物職人を自国に招いて、生地が織れるようになり、それを輸出することによって、巨万の富を蓄えるようになりました。羊の毛は、根本で絡み合っているので、ハサミで切ると、1枚のマットのようになり、これを「フリース」と言います。ユニクロを一躍有名にした「フリース」の語源はここから来ています。次号は一番関心の高い髪の毛の話です。ご期待ください。