人生を豊かにする金言名句(52)local_offer金言名句
ジャーナリスト 岩田 均
日光を見ずして結構と言うな

日光とは、街や公園のことではなくて、栃木県にある日光東照宮を指しています。ですから、「東照宮を見ないうちは、むやみにほかの建築物をほめてはならない」(『明鏡ことわざ成句 使い方辞典』大修館書店)となります。そして、日光と結構は語呂合わせになっています。
連想する句は「ナポリを見てから死ね」でしょうか。これはドイツの文豪ゲーテ(1749~1832)がイタリアを旅した時にまとめた紀行文(『イタリア紀行』相良守峯訳・岩波文庫)に出てきます。湾曲したナポリ湾と市街、その向こうに見えるベスビオ火山(活火山)の眺望。ゲーテは同書の中で、その美しさを何度も褒めています。
ゲーテの旅は当時、簡単にできたことではないと思います。どうしても行きたいという衝動や覚悟があったのでしょう。もしかしたら「一生に一度」という特別なものだったかもしれません。
例えば、イスラームの信者にとってはメッカ巡礼があります。サウジアラビア西部にある街で、開祖ムハンマドの生誕地です。巡礼の期間中、群衆が将棋倒しに遭って多数の人が犠牲になることもありました。まさに生死を賭けた旅です。
日本では、お伊勢参りでしょうか。江戸時代なら文字通り一生に一度行けるかどうかでした。宗教的な意義もありました。今なら、伊勢神宮も日光東照宮も、修学旅行の定番。ほとんど苦も無く行けます。
実は、筆者も一世一代という意気込みで出かけて行った所があります。学生時代の19歳。立山黒部アルペンルートです。”えー、意外に近くだなあ”と言われてしまいそうですが、今振り返ってみても、この旅は「20歳」を目前にした未熟な人間に、人生の転機を与えてくれました。
さて、「結構」は含蓄のある言葉です。「もう必要ありません」という時にも使いますが、こんな言い方も。「文章や建物などの組み立て、構え、特に『結構を尽くした建築』のように、善美を尽くして物を作るという意味があります」(『日本のことわざを心に刻む』東方出版)と。身近にも「結構な物」はたくさんありますね。
