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APTF 公式サイト機関誌「真の家庭」チョッとためになる健康のお話(28)

チョッとためになる健康のお話(28)local_offer

健康アドバイザー 上杉和彦

時間が必要な補聴器の効果

桜前線は約1カ月かけて日本を縦断します。ゴールデンウィークの時期には北海道が見ごろとなるでしょう。全国の河川や道路沿いに桜が植えられ、私たちの目を楽しませてくれていますが、桜の寿命は60年から100年。手入れや植え替えをしないと、やがて消滅します。昨年、私の故郷で国の天然記念物に指定されていた樹齢500年のミズナラが倒れてしまいました。ふるさと自慢の一つだっただけにとても残念です。樹木は成長が遅いため、いつまでも生きていると思いがちですが、いつかは寿命が来て倒れます。人間と同じですね。

先月の続きです。目が見えないことを盲、耳が聞こえないことを聾(ろう)と呼びます。では、五感のうち、味覚、嗅覚、触覚がなくなることを表わす言葉は何でしょうか。実はそのような言葉はないのです。逆に言えば、それだけ視覚と聴覚は人間が生きる上で重要な感覚だということです。盲という字はよく使いますが、聾という字を使うことはあまりありません。私はこの原稿を書くまでは、この字を書いたことがありませんでした。

加齢性難聴になるのは、男性が多いと言われています。高齢の夫婦喧嘩は、聞こえが原因で起きることが多いです。「人の話をちっとも聞かない」「生返事ばかり」「耳が遠いと思って大きな声で話しかけると『うるさい』と怒り出す」「テレビのボリュームをめぐって喧嘩になる」など、心当たりはありませんか。

耳の病気でよく起こるのが中耳炎です。耳から鼓膜までを外耳、鼓膜から蝸牛(かぎゅう)までを中耳、蝸牛から脳までを内耳と呼びます。耳と鼻は耳管(じかん)という管で繋がっています。通常は閉じているのですが、あくびをする時や何かを飲み込む時に開きます。飛行機に乗ると耳がツーンとなることがありますが、これは鼓膜の外側と内側の気圧が変わり、気圧の低い方に鼓膜が押されるためです。鼻をつまんで息を送ると空気が抜けて治ります。そのままにしておくと鼓膜が破れてしまう可能性があります。風邪などが原因で、この耳管を通ってウイルスや細菌が中耳に侵入して炎症を起こすのが中耳炎です。

中耳には鼓膜に伝わった振動を増幅する機能があります。魚には外耳と中耳はなく、内耳しかありません。それは、水が音の振動を良く通すので、集音も増幅も必要ないためです。空気は音を伝えにくい性質があるので、爬虫類や両生類、鳥類には内耳と中耳があります。外耳まであるのは哺乳類だけです。寒い地域に住む哺乳類は耳が小さく、暑い地域に住む哺乳類は耳が大きい傾向があります。それは、耳の表面から体内の熱を発散させて体温を下げるためです。

中耳で増幅された振動が、内耳で電気信号に変換されて脳の聴覚野に伝わり、音として認識されます。スピーカーの機能と一緒ですね。ですから、音は耳で聞いているのではなく、脳で聞いているのです。ここがポイントです。

難聴になって、脳に入ってくる信号が少なくなると脳の働きが衰えます。そこに、補聴器をつけて、たくさんの信号を脳に送り始めると処理能力が追い付かず、単なる雑音に聞こえてしまうのです。

目は外から入ってくる光を電気信号に変えて、脳で認識します。視力が低下すると、ピントが合わなくなって形がぼやけます。それをレンズで補正するため、メガネを掛けたとたんによく見えるようになるのです。しかし補聴器は、機能が低下した聴覚野を回復させながら使うので、効果が出るまで時間がかかるのです。ここにメガネと補聴器の違いがあります。続きは次号で。