機関誌「真の家庭」publication

APTF 公式サイト機関誌「真の家庭」愛の知恵袋 196

愛の知恵袋 196local_offer

家庭問題トータルカウンセラー 松本 雄司

フレイルを克服して健康長寿を

誰にもいつかやってくる”フレイル”

いつも正月には便りをくれていた友人から音沙汰がないので、気になって電話をしてみると、「いや~、ごめんね。つい忘れてしまったよ。特別な病気じゃないけど、最近は疲れがひどくて、時々、気が滅入ってしまうこともあるんだ」と言います。

50代のころから物忘れと疲れが始まり、65歳で退職してから特に体力と気力が衰え、75歳ころから急に歩くことが難しくなったとのこと。「これが”年をとる”ということなのかな。最近は外出するのも面倒くさくなってきたんだ」と言うのです。

すると、傍らにいた奥さんが電話口に出て、「運動しなきゃダメって言っているんですけど、腰が重たいんですよ。松本さんからもガツンと言ってやってください。私だって最近は体不調で…。このままだと二人とも要介護になりかねないと心配しているんですよ」とのことでした。

このご夫婦は、いわゆる”フレイル”状態になっていることが分かりましたが、私もそれなりの年齢なので、この友人の事情はよく理解できました。

フレイルとは何か

「フレイル」とは、「虚弱」「老衰」という言葉から来た医学用語で、「健康」と「要介護状態」の中間段階のことです。つまり、加齢によって心身の活力(筋力や認知能力)が低下した状態のことで、進行すると要介護状態になります。また、疲れや物忘れが増えてくるフレイルの前段階のことを「プレフレイル」と呼んでいます。

”フレイル”は三つの種類に分かれます。

  1. 身体的フレイル…転びやすい、足腰が弱って歩けない、疲れやすいなど、筋肉量や筋力の低下による身体的機能の低下
  2. 精神・心理的フレイル…退職後の虚脱感、配偶者の喪失などの原因で気がふさいで、うつ状態や軽度の認知症の状態になること
  3. 社会的フレイル…加齢に伴って社会とのつながりが減少して生じる一人暮らしや経済的困窮の状態

三種類のどれが最初の入り口になるかは人によって違いますが、これら三つのフレイルが連鎖すると、”老い”は急速に進み、要介護状態になってしまうのです。

しかし、まだ希望はあります。フレイルには「可逆性」があるという点です。気が付いた時から予防に取り組めば、再び健康状態を取り戻し、要介護を防げるのです。

厚生労働省でも、人生100年時代を念頭に健康長寿社会を目指していますが、そのカギを握るのは”フレイル予防”だと考えています。

フレイル予防の三本柱

フレイル予防のポイントは、次の三つです。できれば、対策はプレフレイルになりやすい50代ぐらいから始めるのが理想的と言われています。

  1. 栄養…朝・昼・晩、食事をバランスよく食べる。特に、筋肉をつくる「たんぱく質」と骨の発育に必要な「ビタミンD」をとる。定期的に歯科を受診して歯と口の健康を保つこと。
  2. 運動…ウォーキングや水泳などの有酸素運動や、スクワットなどの筋トレを体力に合わせて継続すること。それが無理なら、買い物には歩いて行くとか、階段を上るなど、身近な所から運動量を増やす。
  3. 社会参加…できるだけ外出し、人との交流をもって脳に刺激を与えること。自分の体力に見合った仕事を見つけて再就労したり、趣味やボランティアなどをして楽しみや生きがいを見出すとよい。

私もふと、自分の両親のことを思い出してみると、母は84歳、父は94歳で他界しましたが、不思議にも最後まで全く認知症や要介護にはなりませんでした。

父も母も自動車を運転せず、仕事でも私用でも、とことん歩いていたこと。70代で店を廃業してからも、趣味やボランティアをしていたこと。毎日、新聞を読み、文字や絵を書いていたこと。特に、母は最期の日まで日記をつけていました。

今思えば、両親が認知症にならなかったのは、そんな生活のおかげだったのかもしれません。

人は年をとると赤ちゃんになる

フレイル対策は、本人の自覚と努力でやることですが、配偶者や子供など家族の協力が大切です。誰かが気が付いたら、少しでも早く家族で相談して取り組みましょう。その際、家族みんなの理解と寛容さが必要です。

「だらしない!」と叱責したり、「その話は、もう聞いたよ!」と言って馬鹿にしたりすると、当人は傷つき、心を閉ざしてうつ病になったり、逆に、ひどく怒りっぽくなったりして症状を悪化させることになります。

「老いて再び稚児になる」ということわざがあります。高齢になって理解力や判断力が衰え、子供のような状態に戻ることを言います。

親は何もできなかった赤子の私を深い愛情で育てあげてくれました。今度は子供が老いて不自由になった親の世話をして恩返しをする番です。「お年寄りは赤ちゃんだ」と思って、おおらかに受け入れて、優しく支えてあげてほしいと思います。