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家庭問題トータルカウンセラー 松本 雄司

三代目こそが肝心

一番大切なことは後継者の育成

以前、”終活”について掲載した時に、熟年期の私たちにとって一番大切なのは、自分の”志”を継承してくれる後継者を育てることだと言いました。

今日はそのことをもう一歩掘り下げて、お話したいと思います。

”江戸いろはかるた”に、”総領(そうりょう)の甚六(じんろく)”という句があります。良家の跡取りは大事にされて育つため、世間知らずのお人好しになりやすく、初代が苦労して築いた業績を守り切れずにつぶしてしまうことが多い…という意味です。

そこで、”かわいい子には旅をさせよ”という教訓が生まれます。跡取り息子はかわいいが、あえて心を鬼にして丁稚奉公(でっちぼうこう)に出し、底辺から苦労をさせて人望と実力を備えた立派な後継者に育てよ…というのが大店(おおだな)の家訓になりました。

これらは「志の継承は二代目が難しい」「二代目の育て方に注意せよ」という教訓です。それを踏まえたうえで、さらに志の継承がずっと長く続くかどうかという点から見ると、実は、”三代目がきちんと立つか否か”でその勝負が決まると言われます。

徳川家はなぜ長期安定政権になれたのか

では、その後継者問題の歴史的具体例を見てみましょう。

天皇家は別格だとして、日本の歴史上最も長期安定政権を維持できたのは江戸時代265年間を治めた徳川家です。

初代の徳川家康は苦労人であり、頭の良い人物でした。天下統一を目指した織田信長は二代で終わり、天下統一を果たした豊臣秀吉でさえも二代で終わりました。

家康はその厳しい現実を目の当たりにして、どうすれば徳川家と世の安泰が末永く続くかを考え抜いたようです。

そのため、徳川家に忠誠を誓う家臣団の育成に心血を注ぎ、全国の大名は親藩(しんぱん)・譜代(ふだい)・外様(とざま)に分けて配置して参勤交代を実施(制度化されたのは三代将軍家光のとき)。武家諸法度、禁中並公家諸法度を制定し、士農工商の身分制度まで定めて緻密な統治体制を整備しました。

一番深刻なことは血統の断絶であるので、将軍職に家康の直系男子の血筋が絶えた時には、徳川御三家(尾張・紀州・水戸)から輩出することまで定めました(のちに八代将軍吉宗は御三卿〈田安・一橋・清水〉からも輩出できるように補強)。

三代目が運命の分かれ目

そして、家康が最も心を注いだのが、”三代目にしっかりした人物を立てること”でした。二代将軍には三男の秀忠を立てましたが、家康は彼にはあまりこだわらず、秀忠の次男の家光に特別な関心と愛情を注ぎました。

それはなぜでしょうか?…二代目は誰であっても、初代(家康)がまだ生存していて駿府城から陰の将軍として威光を発し、全国の大名に目を配ることができました。しかし、三代目の治世になれば、もはや家康もこの世の人ではなく、本人が自分の実力と人望で治めなければならないからです。もし凡愚であればそこで終わりです。

そこで家康は家光にお福(春日局)という優秀な女性を乳母(めのと)につけて養育させ、多数の若手家臣も傍において徹底した指導者教育をしました。

結果として、家光は父親の秀忠以上に祖父の家康を心の底から尊敬し、慕いました。

その気持ちが表れているのが、家康を祭る神社として建てられた日光東照宮です。

”日光を見ずして結構と言うな”と言われるように、芸術と技術の粋を集めて建立された日光東照宮には、家光の家康に対する感謝と畏敬の念が込められています。

こうして、家康、秀忠、家光…と三代圏で志が継承され、伝統基準が確立したので、それ以後長期にわたる統治が継続できたのです。

江戸時代の長期安定社会のおかげで、今も残る日本の良き伝統・文化・国民性が形成され、成熟しました。武家の礼儀・作法・勤勉・質素倹約の精神、農民の大自然と調和する営みと祭りの文化、今に続く工芸・技術者たちの職人気質、商人たちの信用第一の取引慣行、繊細で美味な日本料理や多彩な芸能・文化を花咲かせた町人文化…等々。

いずれも日本を訪れる外国人たちを魅了してやまない日本文化の精華です。

じいちゃん・ばあちゃんのお役目

これらの教訓は、現代の私たちにおいても通用する面があると思います。

誰でも自分が抱いてきた夢や志をずっと子孫に継承してほしいなら、まずは二代目をしっかり愛して育てることです。そしてさらに、三代目をきちんと立てることができれば、そこに”伝統”が確立して、ずっと継続できる道が開けていきます。

とすれば、親・子・孫の三世代同居や親しい交流が重要であることが分かります。

実のところ、じいじ・ばあばに期待されるのは”孫の世話”ですが、それを喜んで引き受けて、孫に深い愛情を注ぐのはとても大切なことだと思います。

親の愛情と祖父母の愛情は共に大切ですが、一味違います。祖父母は目先のことにとらわれず、長い目で見て、人生に本当に必要で大切なことを教えてくれるのです。